アセット作家インタビュー「宴」by マッドネスラボ(後編)

前編に引き続き、「宴」作者のマッドネスラボさまインタビューをお届けします。
インタビュー:マッドネスラボ 時村良平 様 @rodostw
聞き手:株式会社ヘッドハイ 一條貴彰
https://www.assetstore.unity3d.com/jp/#!/content/80727
「宴」公式サイト
http://madnesslabo.net/utage/
宴が生まれたきっかけ
――「宴」を作りはじめたきっかけは何でしたか。
元々は、自分で作りたいゲームがあってそれの会話シーンのツールを作るだけのつもりでした。
ただ、せっかくだからアセットストアに出してみようかなと思いまして。
というのも、10年以上前から「日本のゲーム業界は技術を共有せずに囲い込んでしまったせいで欧米に抜かれた」みたいな意見をよく耳にしていたんです。
宴を作り始めたのは、ちょうど会社を辞めて個人開発を始めたころだったので、しがらみもないしやってみようかなと。
やってみると反響があっておかげさまで今日まで続けさせてもらっているのですが……当初の目的である「自分で作りたいゲーム」がすっかり後回しになってしまいました(笑)
以前はちょっと競合するビジュアルノベルツールはありましたが、作り始めてから4年で、色々なタイトルに使っていただけるまでに成長しました。
――宴を開発するにあたって、特にこだわった部分はどのあたりですか。
「簡単に使える」という点ですね。宴さえあれば、ともかくノベルは作れるぞと。
エクセルを採用したのも「簡単に使える」ようにするためです。
そのために「9割の人はそうするだろう」ということは、特に何もしなくても自動的に行われるようになっています。
「何をデフォルト設定として、どこまでは細かく設定が必要か」という点はけっこう意識して作りました。
ほかには「ドキュメント」もしっかり作っています。
宴の場合は、コンポーネントだけじゃなくて、ノベルゲームのスクリプトコマンドのほうがずっと多いので、まとめるのはとても大変でした。Webサイトのページ数だけでも100は超えていると思います。
全部読む必要はないですが、当初はもっと簡単なものを目指していたので正直その辺は反省点ですね。普通は100ページのドキュメントとか読みたくないでしょう(笑)。
Asset Storeの審査があるので英語対応必須というのも大変な点です。ドキュメントは英訳もしたのですが、アップデートのたびに英訳するのは無理でした。
ただ、ドキュメントをちゃんと自分で書くこと自体はやっぱり必須ですね。
新機能とかは、実装を無事に終えてドキュメントを書く段階になってから 「こんな面倒な手順のドキュメント書くくらいなら自動化ツール作ったほうがいい!」と思って設計変えたりすることがあります。
手間は手間ですが、一度リリースしてからやっぱり直そうとなったら互換性気にするのも大変ですし、その時はドキュメントも書き直しになるので。
ドキュメントを書く段階で使いづらさに気づいたら、大変でもなるべくリリース前に設計を見直すようにしています。
宴の未来とユーザーの皆様へのメッセージ
――今後はどんなゲーム開発者さんに使ってほしいですか。
どんな人でも大歓迎です。
あえて言うなら、目パチ、口パク、パラパラアニメや動画オブジェクトが使えるようになりましたので、「一味違う」演出をしたいゲームを作ってみたい人とかでしょうか。
動画オブジェクトやパーティクルもサポートしていますので、表現の幅はかなり広がっていると思います。
それと、最近はアジア圏のお客様が多いですね。韓国・台湾・中国からメッセージが来ることがあります。折角英語ドキュメントがあるので、様々な国の方に使っていただければ嬉しいですね。
――アセットを買ったみなさんにメッセージはありますか。
なによりもまずは「ありがとうございます!」ということで。
日本ではゲームの人気の秘訣に、「魅力的なキャラクターの会話」というのが間違いなくあると思います。
ゲーム開発もどんどん高度になってきましたが、たぶんこの基本は今後とも変わらないと思います。
宴がみなさんのゲームキャラクターの魅力を引き出す一助になれたら幸いです。
――アセットを買おうか考え中で、この記事を読んでいる人にメッセージはありますか。
ノベルや会話シーンは簡単に作れるイメージもあると思うのですが、細かい機能がたくさんあるので、やってみると面倒だったりします。
たとえば、ルビの表示とかを作るとかなり面倒であきらめることになったりしますので、もう宴でサクって作っていただければと。
宴2まではファイルのロード部分を各プロジェクトのファイル管理と組み合わせるのが難しかったので、その点で採用を見送るというケースがあったのですが、
宴3からはその点はかなり楽にできるようして、ドキュメントもまとめてありますのでもう大丈夫かと思います。
ほかにもカスタマイズ性もけっこう高く、Unityとの連携も色々できるようにしてあります。
独自にカスタマイズしてオリジナルのコマンドが増えており「喋っているキャラ以外はグレーアウト」みたいな統一的な仕組みの拡張もしやすくなっています。
ユーザーさんの中には、カスタムコマンドで自分のゲームの仕組みを呼び出す仕組みをたくさん作って、「エクセルで編集できる簡易スクリプト」として使っているなんて人もいます。
その方はノベルの機能は全く使っていないそうで……自分としても想定外だったのですが、そんなやり方もありかなと思います。
最近はゲームアプリの中の会話シーンで「宴」を使っていただける場面も多いです。そこで、なぜ自作しないで「宴」を使ったほうがいいかという話ですが、ノベルゲーム形式の会話シーンって細かいルールというか、意外と作らないといけないところがかなり多いんですよ。ボイスが鳴っている間はBGMのボリュームを下げるとか。ルビの配置であるとか、気にしなくてはならない箇所がいくつもあります。そうした配慮しなくてはならないところをなるべくカバーするように「宴」を作っています。
――今後追加予定の機能はありますか。
正直もうやり切った感はあるので、大きな機能追加よりは安定性とかに目を向けようかなと。
これ以上となると、エクセルじゃなくてUnity上のGUIエディタで編集できるようにするとか、フローチャートエディタとか。
その辺も考えはしたのですが、そこまでやるならもう宴とは別ツールとして作ったほうがいいかなと。
ただ、これをやるにはちょっとUnityのエディタ拡張機能に大幅な更新があればという感じでしょうかね。現状だとちょっと大変なので。
――全く別のアセットを作ってみたいとは思っていますか?
ちょっと前に実験でこんなのを作りました。
遺伝的アルゴリズムの勉強がてら、UnityのAnimationCurveでTween系のカーブを「より少ないキー」で再現するデータを作ってみた。一度作ってしまえばpresetデータ保存して、テンプレートとして使いまわせる。 pic.twitter.com/o6pPtl3tU4
— 時村良平 (@rodostw) 2017年6月2日
カーブのパターンを増やせる拡張です。次出すならこういう単純だけど汎用性が高そうなのを狙ってみたいですね。宴は扱う範囲が広すぎなのが反省点なので。
ただ、このアセット自体はUnity Internal、つまり非公開部分を使わないとできないので、非公開じゃなくなったら考えてみようかなと。
――その他、アピールしたいことがあればお教えください。
今年からは、当初の目的であった「自分が作りたいゲーム」を作りたいと思っています。
そのフィードバックは宴にも取り込んでいくつもりですが、個人ゲーム開発者としても頑張っていこうと思っていますのでよろしくお願いします。
https://www.assetstore.unity3d.com/jp/#!/content/80727
この記事を書いた人
一條貴彰株式会社ヘッドハイ 代表取締役
ゲーム作家・Game DevRel。小規模ゲーム開発者がもっと活躍できる世の中作りを目指して、ゲーム開発ツール・サービス専門のDeveloper Relation事業を行っています。ゲーム作家としての代表作は『Back in 1995』(Steam)。